2015.12.16
ソーシャルゲーム開発あるある問題 何故3D制作会社は2D制作会社に比べて高いのか?
2014年7月に株式会社コロプラからリリースされた「白猫プロジェクト」を皮切りに、ソーシャルゲームの3DCG化には更に拍車がかかりました。2015年の9月に開催された東京ゲームショウでは、ソーシャルゲームメーカー(SAP)さんからの3DCGを用いたゲーム紹介が盛んに行われました。
その一方、ソーシャルゲーム会社から3DCG会社に仕事を出す際のトラブルは未だにありがちです。一番は何より「金額が合わない」こと。他にも「これまでと仕事のし方が違いすぎて合わない」というような意見は映像制作会社さん側からよく伺います。でも、同じ画像素材の制作なのに、2Dと3Dは一体何が違うんだ?というご質問はSAPさんがよく疑問に思われる部分です。2DCGイラストは値段の乱高下が激しく、一時期は1枚20万円以上ということもありました。現在では平均して8万円前後くらいに収まっています(ラクビジでご紹介する案件の平均単価を調べました)。こういった金額の乱高下も起きにくく、基本的に単価を動かしたがらないのが3DCG制作会社です。ここでは、2DCGイラスト制作会社と3DCG制作会社の背景からその感覚の違いをあぶり出しにしてゆきます。
3DCG制作会社には物凄く大きく分けて2種類あります。「パチンコ・パチスロ案件を手がけている3DCG制作会社」と「パチンコ・パチスロ案件を手がけていない3DCG制作会社」です。現在我々がお付き合いしている3DCG制作会社さんの9割が前者の「手がけている会社」です。「手がけていない」場合は建築やインテリア設計など工業、産業的なものに3DCGを使っている会社が多めです。そうすると自然と「遊技機を手がけている会社」が、同じようなデフォルメキャラクターを制作するゲーム案件も手がけることになってゆきます。
それでも最近はコンシューマーゲームが下火になってきているので、3DCG制作会社さんでは遊技機の液晶部分に表示される3DCGの制作が主になっていました。
遊技機の制作開発費は、コンシューマーゲームやソーシャルゲームとは比べものにならない高額です。例えば東証一部に上場しているセガサミーホールディングス株式会社の、2014年度遊技機の研究開発費は143億93百万円 です(セガサミーホールディングス有価証券報告書-第11期《平成26年4月1日-平成27年3月31日》より)。この資料が発表された2014年度、同社からはパチンコ・パチスロあわせて11タイトルがリリースされており、単純計算でも1タイトルあたり13億円の開発費がかかったことがわかります。またこちらは信憑性としては弱いのですが、2015年4月にTVで放送された「たけしの等々力ベース パチンコ道」では、メーカー大手として知られる京楽の開発担当者が「1台の開発には10億円くらいかけている」と発言したことで話題となりました。この開発コストの高さは遊技機会社側にも負担になっており、同じく大手メーカーであるSANKYOはHPの「経営方針」には下記のような記述があるくらいです。
ここ数年、メーカー間の差別化競争において、液晶演出の高度化や、可動ギミックによる見た目のインパクトを競う状況が続いており、遊技機の開発費や部材コストが上昇しております。これに伴い、当社グループの売上高利益率は販売単価の上昇にもかかわらず悪化しております。また、販売単価の上昇が、パーラーの投資負担増につながり、販売台数が小ロット化するとともに、ファンへの還元が減少するという悪循環が続いております。 この悪循環を断ち切るべく、当社グループでは遊技機の機種当たりの開発費を抜本的に見直すとともに、製造原価の低減にも着手してまいります。(株式会社SANKYO IR情報 経営方針より)
つまり遊技機の開発費は現在上がる一方なのです。
さて遊技機の制作内訳は、簡単に分ければ「企画」「制御プログラム開発」「映像制作」「筐体デザインと制作」「サウンド制作」の5種類に分かれますが、最も凝っているのが映像制作、つまり3DCG映像の部分です。映像制作にかける金額は月々2,000〜3,000万といったところでしょうか。その上、遊技機における映像制作は修正の多いことで知られています。時には丸々変更と言う事も珍しくありません。修正開発分の負担はメーカー側で行い、追加開発費も出ます。3DCG制作会社さんが長年一緒に仕事をしてきた遊技機の世界というのはこういった金銭感覚の世界なのです。
現在ソーシャルゲームのトータル開発費は、平均して1億円ほどです。(日本オンラインゲーム協会 JOGAオンラインゲーム市場調査レポート2015 http://www.4gamer.net/games/999/G999905/20150731126/ より)同データによるとソーシャルゲーム業界の市場規模は30%以上伸びたということがわかりますが、当然ながらまだ遊技機の金額には届いていません。また開発期間も平均して16ヶ月です。(ゲーム開発者の生活と仕事に関するアンケート2015 CEDEC運営委員会より)単純計算すれば1ヶ月にかかるコストは625万円。これだけで遊技機の約1/4という開きがあります。
結果として3DCG制作会社さんがソーシャルゲームメーカーから発注される金額が遊技機よりも小規模になるのは、当然と言えば当然です。しかしこういった外注先側の歴史を知ることで、金銭感覚の違いは少なくとも浮き彫りに出来るのでは無いでしょうか。「こんな金額じゃ話にならない!」と突き返されてしまうSAP側も損ですし、せっかくの新しい仕事を請けられない3DCG制作会社側にも勿論もったいないことです。最近ではちらほら人月80万前後で3DCG制作を任せるSAPさんも出て来ましたが、それでも少数です。3DCG制作会社を探している、という場合はこういった映像制作会社の環境を背景として知っておくと、それだけで制作会社側からも「わかってくれている」という意識を持たれやすく話も進みます。最初から「こんな金額で提案してくるなんて、この会社はもうダメだ」と諦めてしまうと、次の会社もその次の会社もそうなってしまいがちです。お互いの対話のためにも、少しでも外注先の状況を理解してみて下さい。
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