2016.04.13

世界のゲーム業界はVRをどう見るか?本場アメリカが見るVR市場の将来

main_vr_image「お母さんでも遊べなきゃ、VRゲームの成功とは言えない」

VRゲームはここ最近世界の注目の的です。去年のTGSでも先日のUnite2016でも、VRについての話題が会場中で出ていました。OculusやPS4 VR、そしてOculus Touchの発売も遠くない未来になった現在、世界的な関心がVRゲームに集まっています。そんな中、先日VRゲームに関する記事がNewsWeekにUPされました。内容としてはVRに対応したゲームの体験レポートと、VRゲームが今後持つ課題についてです。タイトルは意訳すれば「ゲームオタクのためだけでなく、君の母親だって遊べるOculus」。それぞれのゲーム内容については後ほどご紹介するとして、記事自身が伝えているのは次のような事です。

OculusをはじめとしたVRゲームはここ最近の話題となっている。その直感的な操作性は確かに魅力だし、そう言った点では以前大ヒットを飛ばしたWii(PS4とXbox Oneの売上合計の倍以上売れている)を彷彿とさせる。しかしWiiがヒットするきっかけとなった一般層、家族層はその後スマホアプリのゲームに乗り換えてしまい、任天堂ハードはその後も好調とは行かなかった。VRゲームはエンターテインメント体験に確かに革命を起こすだろうが、それはいわゆるゲームオタク、ハードコアゲーマーにのみ限った話ではないか?ゲームを普段遊ばないカジュアルゲーマーを魅了することはできるのだろうか?

・・・こういった内容と共にOculusのローンチタイトルが次々と紹介されます。まずこの記事を読んで気づかされるのは、日本と米国でのVRに対する関心の差です。NewsWeekは正に「ハードコアゲーマー」よりは「カジュアルゲーマー」に近い人達のための媒体ですし、ゲームについての特集記事をそう頻繁に書くわけではありません。それでもローンチタイトルの紹介までされる、というのは米国民全体のVRに対する興味の度合いを表すものでしょう。一方、日本では「サマーレッスン」などが少し話題になりましたが、それ以外に「VRゲームにはこんな種類が!」といったような一般向けの記事はそう多くありません。実際、日本のゲーム業界の現場はVRをどう見ているのでしょうか。

VRに対しては「消極的な積極的」

現在、国内のゲーム開発会社や映像制作会社にとってVRはやはり気になる存在です。スマホの次がくるか?という期待を含んだゲーム業界に注目されているのは言うまでもありませんが、遊技機の規制以来大きな案件が減ってしまった映像制作会社にとって特にVRは無視出来ない問題です。「研究をしている」「一応テスト的にVR映像は作っている」という会社さんはいくつもあります。しかし、どこに伺ってもVRについては「ビジネスにならないからまだ動かない」というのが当面の結論。ゲームが出る!という話や、大きな投資がある!という話にならない限り動かない・・・というのが全体的な意志です。最も芸能系や不動産会社などはVRに注目しつつあり、小さくとも案件は生まれています。最も芸能系の場合はまだ活発な動きとは言えず、予算も低め。最も可能性がありそうなのは実は不動産?という状態なのでゲーム業界はほとんど「やってはみたいけどまだかな」という、消極的に積極的、という状態です。

エイジオブエンパイアやZyngaのスタッフが手がけるローンチタイトル

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さて、ここで米国のOculusローンチタイトルについて見てみましょう。一番最初にも取り上げられている代表的タイトルは、プレイフル社(Playful Corp.)の「ラッキーズテイル(Lucky’s Tale)」です。これはスーパーマリオのような「新しいゲームハードを体感してもらうためのわかりやすいタイトル」が意識されており、ビジュアルもポップで親しみやすいものとなっています。プレイフル社はVRゲームのために作られた会社ですが、CEOにはZyngaの立ち上げに関わったポール・ベトナー(Paul Bettner)が就任しています。彼は、米国で爆発的な人気を誇る「Words with Frineds」というゲームアプリのプロデューサーとしても知られています。プレイフル社には他にエイジオブエンパイアシリーズやヘイローの開発に関わったスタッフも在籍しており、高い技術と時代性を持ったゲーム作りが予想されます。この「ラッキーズテイル」はキツネのラッキーがメインキャラクターですが、スーパーマリオシリーズのようにプレイヤーがメインキャラクターとなって動くのではなく、ラッキーはプレイヤーの相棒扱い。ゲームの中でラッキーがプレイヤーを見上げたり距離を保とうとしたりと、一定の信頼感を生み出すことが狙いとされています。

orbital_00リアル系となるとタワーディフェンス系の「Defence Grid 2」や、絶壁のクライミングを楽しめる(高所恐怖症にはかなり怖い)「The Climb」などが紹介されています。その一方で、デフォルメされたビジュアルを主とした「Fantastic Contraption」というパズルゲーの紹介も。これはデフォルメされているからこそ、ゲーム内に入り込んだような錯覚を感じる事ができるようです。他に、個人的に気になったのは「I Expect You to Die(多分君は死ぬ)」。これは脱出系パズルゲームで、プレイヤーは爆弾が仕掛けられた密室など危機的状況を、VRを用いて何とか脱出しなければなりません。これは遊ぶためにOculus Touch(秋頃米国発売)が必要ですが、想像力をかき立てられるゲームです。

 

「Defence Grid 2」は、これまたエイジオブエンパイアシリーズの移植等を手がけたHidden Path Entertainment社が、「I Expect You to Die」はアプリゲームやMMORPGを制作しているSchellgames社が、「The Climb」は、エレクトロニックアーツの人気シリーズ「クライシス」の開発元、Crytekが制作しています。「Fantastic Contraption」はRadical Games社Northway Games社の共同開発ですが、これはiPhone向けなどにゲームを作っていた小規模な会社が共に「VRで遊べるカジュアルゲーム」を模索しているようです。こちらはゲーム自身のHPに開発の様子が少しだけUPされているので、開発者の方にも楽しめるのではないでしょうか。

日本でVRが上手く行くには?

ざっと探してみた限り、私の力では米国におけるVRゲーム開発費用の詳細まで調べることはできませんでした。ただ、上記を見るだけでもローンチタイトルを制作している会社の多くはゲーム業界をリードしている存在であることがわかります。日本だけに限らず米国でも「VRは本当に“来る“のか?」という不安は拭いきれないようですが、模索は今でも行われています。日本でVRゲーム市場が大きくなるとすれば、そのきっかけの1つはゲームアプリの大手SAPが意を決して参入することとなるでしょう。既にガンホーやコロプラといった企業が参入を表明、一部はタイトルを発表しており、旧来のゲームメーカーも多くが参入表明をしています。あとは、米国でも提言されているとおり「いかにカジュアルゲーマーを魅了するか」だけが課題。これは米国も日本もスタート地点は同じようです。1人でも多くのユーザーが、この記事や日本のゲームをきっかけにVR市場を大きくする一員となれば嬉しく思います。

※今回の記事に利用した各種スクリーンショット、動画はそれぞれ開発会社の公式サイトより抜粋しております。

PROFILE

平田 悠貴 ビ・ハイア株式会社副社長

平田悠貴

ラクジョブ運営会社で2番目に偉い人で現場で1番偉い人。東京都在住。学習院大学文学部哲学科出身。ラクジョブはこの平田さんがいなかったらもっと前になくなっていたでしょう。アニメをみて、作画が良いと良く感動して泣きます。