2016.01.08
アニメ業界と中国 なぜ最近中国からのアニメ制作オファーが多いのか?と、今後の予測。
2015年は遊技機規制やVRなど話題になった動きが多く注目の年でしたが、実はアニメ業界にとってもかなり大きな動きがありました。それが「中国から日本へのアニメ制作オファー」です。実は私個人でも、「実は中国の大きい企業が日本にアニメを作って欲しいって言ってて・・・すごく良い話なんだけど、どこか紹介してくれない?」というご相談を7社から頂きました。7社!すごい量です。早いところは2014年の末からこういった話が動いており、実際に実現した例も2つ3つ耳にします。
しかし、突然の美味しすぎる話と、これまでどちらかといえば外注先として取引の多かった中国側からオファーということで、警戒気味の人もアニメ業界にはかなりいます。ただでさえ日本のアニメ本数は右肩上がりで忙しいため、あまり無理してこの話に食いつこうという会社さんは多くありません。また、こういったオファー自体、海外に行ったり海外とのつながりがある映像制作会社、ソーシャルゲーム会社の人から突然もたらされることが多く「本業とは関係ないんだけど、こんな話があってね・・・」と始まるために疑心暗鬼な人は多め。実際この話、どこまで信じて良いのか?という事について語ろうと思います。
実は日本より制作数の多い中国アニメ
中国がアニメに力を入れているのは、ここ最近の話ではありません。12年前の2004年の段階で、下記のようなニュースが出ています。
9月3日の中国人民日報によると中国政府文化部は、漫画、アニメ、ゲーム産業の育成のために新たな専門作業チームを発足させた。中国政府は今後3年から5年の間を漫画、アニメ、ゲーム産業の育成のため戦略的発展のための時期と位置づけ、これら産業のための合理的なビジネスの仕組みを構築する。中国オリジナルの価値や方向性をもった作品を自ら知的財産権をもち、国内市場の主流としたいと考えている。
アニメニュースサイト「アニメ!アニメ!」より
また、2005年には国から「国家動漫生産基地(アニメ制作拠点)」に対し、年間3000分の生産指標を示しています。これが達成できない場合は「不良基地」とみなし、基地資格を剥奪、テレビアニメ許可証(同05年から実装)を発行しないというペナルティがあります。こういった理由から中国国内では急激にアニメ制作が盛んになってゆき、既に1年辺りの制作本数は日本のそれを超えていますが、一方で「安く大量に作る」という体制のために面白い作り込まれた作品が少ない、という欠点があります。
参考:制作量は日本の2.5倍でも……中国アニメーション産業の光と影http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1205/15/news016.html
右肩上がりの中国
因みに「中国で日本のアニメを流せば・・・」という考えもあるかも知れませんが、2006年から中国では海外のアニメ放映をほぼ禁じており、ゴールデンタイムの最も視聴率が高い17〜22時は海外アニメの放映ができません。そのためにどうしても国内産アニメを消費する形となります。これが、つい最近までの中国アニメの状況でした。
しかし、最近になってネット上での動画配信が中国でも急激に広まりました。ネット配信の良いところは、TVに比べて規制がゆるい所です。Blu-rayなどのソフト、出版物はまだ規制が多いものの、動画配信は可能性がある。しかもゲーム等との親和性も高いということでビジネスチャンスを見いだした中国の企業がこぞって注目し始めます。中国の動画配信会社は、日本のアニメ配給会社から公式の配信権を獲得して次々とビジネスを成功させています。元々、規制以前の時代に日本アニメを見て育った世代は日本アニメらしさを好む傾向にあり、こういったアニメの動画配信が若い世代を中心に注目されてゆく事になります。
伸び続ける動画関連
中国アニメーション市場は2010年から2014年の間に、470億中国元から1000億中国元へと市場規模を拡大しており、2006年のアニメ政策は次々と効果を見せています。しかし「大量制作」を唄うことからクオリティが安定せず、動画で配信される日本アニメに人気が集まるという現状から、企業側がアニメ制作を日本に発注する、という流れができたと考えられます。
(参考:「アニメ王国」狙う中国…制作本数、日本抜き世界1位 http://japanese.joins.com/article/350/209350.html 韓国経済新聞)
中国からのアニメ発注、懸念点は?
中国からのアニメ発注は、基本的に国からではなく企業から行われます。国の政策に関わるというよりは、アニメ事業が儲かる!と踏んだ金銭的余裕のある企業が、アニメに投資するために早めに動いた、という印象の方が正しいようです。金銭的余裕があるために話の規模は大きく「グッズ化」「ゲームとの共同開発」「多数の番組を作成」という話が平気で出てくるのも特徴です。この辺りは私が話をもらった様々な企業様からのご相談に全て共通していました。とにかく大規模です。
しかし懸念点としては、「前例が少ない」こと。そして何より「中国の観客に向けた制作を依頼されること」です。中には日本での放映もOKという話もありますが(というか、多いのですが)日本で放映する前に本国である中国で・・・というのは当然の話です。ただしその際に何としてもビジネス的な成功が必須とされますから、日本人受けするアニメを作る事は出来ません。もし「日本で放映したいと思っているアニメ」をオリジナルで制作したい、という場合、その企画はすぐには通らないと思った方が良いでしょう。中国からのアニメ発注は、監督からキャラクターデザイン、シナリオやプロットまで日本任せで大丈夫!というものが殆どです。しかし中国の発注側が求めているのは「中国国内の大量生産アニメよりも質が高く作り込まれていて、中国で人気が出るアニメ」です。ですから中国で受けるストーリーやキャラクターとは何か?ということを考えた上で取り組まなければいけません。場合によってはそれは日本国内では受けない可能性も大いにあります。
一度受ければ作品としては成功ですから、中国国内でのグッズ化や連続制作のお願いもあり得るでしょう。この辺りは契約をよっぽど雑にやらなければ大きな損は無いと見込めます。ただし中国の政府側が日本アニメの配給を国内TV網で禁じたように、ネット上のアニメに関してもいつメスが入るかわかりません。その対策として、「中国国内でアニメを流す際にはエンドクレジットに日本のスタッフの名前が載せられないんです・・・」という条件を出した中国の企業もありました。
中国以外の国で配信する場合は日本の会社名はクレジットされます。これはTVアニメとして放映する事を前提とされていたため、テレビアニメ許可証との関連から取られた対策でしょう。とはいえ中国の人口は日本の約13倍。仮に中国国内だけでビジネスが成功したとしても、充分大きな稼ぎとなります。
こういった流れを見ていると、よく皆さんが懸念される「サギでは・・・」「利益が入らないのでは・・・」といった問題は起こりにくそうだということもわかります。単に本当にニーズがあり、制作会社が必要とされているということですね。
ただし、ここで述べたような問題(中国の視聴者に向けた企画を日本のアニメスタジオで作れるかどうか)を上手く解決しない限り、このブームは長く続かない可能性は大いにあります。せっかく訪れた新しい流れを止めてしまわないように、アニメ会社さん自身が積極的に中国と手を結んでアニメを成功させて欲しい!と願います。
(画像は中国語サイト。中国で作られるアニメが日本のWIT STUDIOで作られるというニュースhttp://acg.18touch.com/dmnews/743893.html)
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