2016.06.06
なぜ鋼の錬金術師は「実写化」される必要があったのか?アニメや漫画作品の実写化が増えている理由にせまる
なぜ鋼の錬金術師は実写化されなければいけなかったか?
鋼の錬金術師が実写化!というニュースが以前流れた時、必ずしもリアルタイムで読んでいた/アニメを見ていたファンは手放しに喜べなかったのではないでしょうか。Twitterなどにも「なぜあんなに実写化が大変そうなコンテンツをわざわざ?」というような疑問の声が沢山上がっていました。確かに実写映画化はアニメに比べて様々な工夫が必要なためどうしても少女漫画のようなファンタジー要素の少ないものの方が評判も安定しています。先日続編が決定した「ちはやふる」もかなりの高評価。一方でファンタジー系漫画/アニメの実写化作品はちょっと・・・という話は珍しくありません。それでも実写化の波が止まらないアニメ・漫画コンテンツ。一体なぜこんなにも、邦画業界がアニメや漫画に進出しているのでしょうか。アニメ・実写映画化ともに行われているいくつかのコンテンツを元に調べてみました。
「進撃の巨人」は失敗だったのか
最近の大型実写化と言えば、「進撃の巨人」が最も印象に残っている人も多いかと思われます。賛否両論ありましたが、ネット上では低評価の方が目立ってしまう作品でした。しかし、この映画は実は興行収入的には成功しています。
当時、「莫大な製作費を投じて作った」と言われたこの映画は前後編合わせて49.3億円の興行収入を上げています。製作費がいくら莫大とは言え、「製作費が5億を超えると高い」と言われる邦画業界で1作が25億以上の製作費をかけているとは思えません。もし、かなり大目に見て2作で20億の予算をかけていたとしても5億円の利益が出ます。つまり「映画ビジネス」としては大成功の作品だったのです。
今回話題に上がった「鋼の錬金術師実写化」も、あの世界観を作るために予算が多く取られるのでは?という予想が散見されますが、それでも充分に利益が出る可能性はあります。
「暗殺教室」「寄生獣」はアニメより映画が成功している
「暗殺教室」「寄生獣」という2作品も、アニメ・実写映画化がどちらも行われました。それぞれ「暗殺教室」の実写映画が27.7億円、「寄生獣」の実写映画が35.2億円という興行収入を打ち出しています。これらが進撃の巨人ほどの製作費をかけて作られた可能性は低いと思われるため、やはり少なくとも数億単位で利益が立っているでしょう。
一方でそれぞれのアニメ作品については苦戦しています。アニメ「暗殺教室」は2期が終わった現在、全部で43話まで作られています。ここまでで既にDVD・Blu-rayも2期の2巻まで発売されていますが、1期の売上が全部で17,471枚と、売上は伸び悩んでいます。もし2期3巻以降のDVD,Blu-rayが1巻ごとに最低1600枚ずつ売れたとしても、2期は13,194枚の売上。1期と合わせて約3万枚の売上となりますが、これは金額に直せば大体2億くらいです。アニメの制作費を1話1500万円と考えても、既に4.5億ほどの損が出てしまっています。
同じように「寄生獣」もアニメのDVDとBlu-rayがBOX前後編にわかれていましたが、それぞれの売上枚数は600枚弱。制作費を同じように3.5億くらいと見積もっても、大きな損失が見えてしまいます。
アニメで得は出しにくい
このように、アニメ制作の場合は制作費が回収できないことが多いことがわかるでしょうか。現在、実写化が実現/発表されている作品の中でアニメ制作費が回収されている可能性があるのは「四月は君の嘘」と「鋼の錬金術師」「進撃の巨人」などが大きな所です。
それでは「実写化」はアニメで取り返せなかった分を埋めるために行われるのでしょうか?現に、アニメは赤字の可能性が高い「暗殺教室」は映画で赤字分を取り返せるほどの売上を上げています。しかし、それはTVアニメと実写映画のスポンサーが全く同じ場合。例えば「寄生獣」などはアニメ版では日本テレビがメインスポンサーとなっていましたが、映画では東宝がメインとなっています。他に「進撃の巨人」も、アニメはポニーキャニオン、映画は東宝となっています。これは、どちらかと言えば主力のスポンサーがそれぞれ作品自体の持つコンテンツ力に注目し、それぞれがアニメや映画を展開して行ったと考えた方が良いでしょう。
今回映画化が決まった「鋼の錬金術師」も東宝が実写化に関わります。アニメ版では毎日放送やアニプレックス、アニマックスといった会社がスポンサーとなっていましたが、映画は全く別ビジネスとして回る可能性があります。
実写化するかどうかは「人が入りそうか」で決まる
※図はオリコン調べのDVD/Blu-ray売上枚数を元に推測して制作しています
※アニメの制作費は1話1500万円、劇場版は3〜5億円としてあります
ここまでざっとまとめてみましたが、今回取り上げた「アニメ化も実写化もした作品」は、全て1000万部超えの漫画作品ばかりでした(進撃の巨人、鋼の錬金術師はそれぞれ4200万部と5000万部というモンスター級です)。続編も発表されている「ちはやふる」も1600万部と、少女漫画にもかかわらず高い発行部数を誇っています。
アニメ化に関しては関わる費用が実写に比べて低いため、高い発行部数が無くても実写よりすぐにアニメ化させることが可能ですが、一度「この作品は話題になっている」「この作品はファンが多いから必ず一定の利益が出る」と見込めれば、実写化の可能性はとても高くなるのです。そもそもアニメについては1話を見る毎にお金を払うという方法は取られていませんが、映画はTVでの放送でも無い限りは観るために必ずどこかでお金を払うことになります。その結果高い製作費をかけても話題性があるもの、ファンがあらかじめいるものについては一定以上の売上が保証されていると考えられているのでしょう。
これからも実写化は増え続けることと思います。完全オリジナル作品よりも既知の作品は実写化に有利だということがおわかりいただけたのではないでしょうか。任天堂の映画業界参入の理由も、こういった「確度の高さ」が1つのヒントかもしれません。でも、だからこそ「人の入るジャンル」として長く続くように、原作ファンやアニメファンも楽しめる実写化を今後も期待したいものですね。
※作品の画像は全てamazonの商品販売画面より引用しました。