2015.12.20
漫画家 採用 新人漫画家採用枠は1年に200人!? 電子書籍とWEBマンガに見るマンガ業界の未来
こちらは、先日UPした電子書籍とWEBマンガに見るマンガ業界の未来(編集者編)の続きです。1でも書きましたが、私達のようにアニメゲームマンガ業界に限定している求人広告ですら、「マンガ家」の募集はとても少ないのが現状です。これは、マンガ家というのが募集しなくても来る職種だからなのです。「求人広告を出す」というのは、わざわざ知らせないと存在を認識して貰えない場合に出すものです。皆さんも普段読んでいるマンガ雑誌で、出版社が出している作家募集の記事が出ているのを見たことがあると思います。わざわざネットでお金をかけて広告を出さなくとも、作家募集の記事を紙面に出すだけでマンガ家は集まります。マンガ家での求人広告のご相談を受けた数少ない例は、他社の出資を受けて起ち上がった新しい出版社から発行される、全く新しいマンガ雑誌についての募集記事でした。因みにこちらも応募が殺到し、かなり早くに執筆陣が確保されていました。それほどにクオリティの高いマンガ家候補は多いという事です。マンガ家に新卒や経験者という概念もありませんが、今の日本にどれだけのマンガ家がいるのか・・・?と調べると、毎年大体決まった人数が増えていることがわかります。
2010年になって突然マンガ家が増えているように見えますが、このデータは「COMIC CATALOG2011」のデータであり、2010年以前の情報ソースである情報メディア白書と「マンガ家」の定義が違った可能性があります。情報メディア白書のデータでは、2009年まで毎年200名前後が増えています。マンガ家というのは基本的に「掲載枠」の分しか増やすことが出来ないので、大体200人くらいが新人マンガ家としてデビューできる上限だと考えられます。(図は、「我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(コンテンツ関連技術に係る基盤整備事業)マンガ等のデジタル制作工程の整備に係る調査報告書 一般財団法人デジタルコンテンツ協会」2015年2月発刊のものより)
同じようにマンガ家アシスタントの統計も出ており、こちらでは大体アシスタントが25,000人に届かないくらい、ということがわかります。(資料は同前)
余談ですが、マンガ家の人数は増えているにも関わらず1人あたりのアシスタントの数は減っています。これはマンガのデジタル化も一因でしょう。こういったマンガ家関連の全国的なデータは全て2010年までしか計算されていませんが、2012年からは出版社によるWEBマンガラッシュが起こります。WEBマンガ自身は2000年代初頭から存在していました。しかし、どちらかと言えば有志のクリエイターが集まってパロディマンガやオリジナルマンガを発表する場所となっており、無料で閲覧が出来てしまうという部分にリスクを感じていた出版社からの参入は遅くなっていました。その後、2008年に開かれたガンガンONLINEが結果を出し始め、2012年には9つものWEBコミックサイトがオープンします。そこから先は皆さんもご存じの通り、元々2009年から活動していたONEさんの人気WEBコミック「ワンパンマン」が集英社の「となりのヤングジャンプ」で村田雄介さんの作画により連載を開始、2015年にはアニメ化するなどWEBコミックはどんどん活躍の場を広げています。現在リアルタイムにマンガ家の増減をカウントしているデータはありませんが、少なくとも紙媒体がメインであった「毎年増えて200人前後」に対し、WEBという活躍の場が増えた以上はWEBのみの連載を行うマンガ家も増えるでしょう。現に集英社の「少年ジャンプ+」や「となりのヤングジャンプ」は、WEB上でしか読むことの出来ない作品を集めて掲載しています。
今後、WEBコミックに関する動きは更に拡大してゆくと考えられます。そうすれば確かにデビュー出来るマンガ家の数も増えるでしょう。しかし前述もした通り、ゼロからWEB上連載のためのマンガ家を集めた求人でさえすぐに人材は集まってしまいました。応募は100を優に超えましたが、最終的にラクジョブから採用になったのは5名です。その内2名は掲載枠では無く「将来性を見て」の採用でした。つまり、確かに掲載枠は増えているしまだまだマンガ業界は伸びると思われますが、爆発的に掲載枠が増えてハードルが一気に下がり、場所さえ選ばなければ誰でも掲載OK!となった訳では無いのです。また、無事掲載が出来たとしても、そして連載が一定期間続いて終えることができたとして、単行本が印刷されない、または途中までしか発刊されないという事もあります。これは直接作家さんから伺った話でもありますが、それなりの大手企業が運営しているサイトでさえコミックの売り上げや人気が無ければコミックスが刷られない可能性はあるのです。これは紙媒体の場合も確かにそうですが、確率としてはWEBコミックの方が高めです。WEB媒体は新規事業のため、出版や運営に掛けるお金は最初、全て投資になってしまいます。また、大幅な予算が取られていないために少しでも利益がマイナスに触れてしまいそうな場合は発刊に踏み切ることができないのです。WEBコミックのブームは、自分のマンガを世に発表出来るクリエイターが活躍出来る場を確かに増やしましたが、まだビジネスとして実験段階なものが多いため、こういった出版に関する問題、メディア化に関する問題はこれからもしばらくはあるでしょう。マンガ家を目指す方がWEBマンガを視野に入れることはもちろん必要ですが、こういったリスクも覚悟しておきましょう。
しかし、最悪自分が連載しているサイトがビジネス不振で潰れてしまったとしても、どこかで連載していたという実績は他に変えられません。サイトが無くなってもクリエイターが死んでしまうわけではないので、それまでの経験を生かして別のサイトや紙媒体を視野に入れてみて下さい。マンガ家という仕事はアニメゲームマンガ業界の中でも制作に関わる人数が極端に少なく、自分自身のマネジメントや将来設計を必要とされる仕事です。会社に雇われるという形では無い以上、常にどこでも発表ができる作品のアイデアストックや、ひとつ連載を持っていたとしても安心しきらず常に最新のマンガ業界状況を集めるくらいのアグレッシブさを持って仕事をすることが何より大事です。