2016.01.26
魔女の宅急便が放映された1989年からガルパン映画化の2015年までで、アニメ業界はどう変わったのか?
ここにちょっとしたレアグッズ(?)があります。1989年「魔女の宅急便」公開当時のしおり型特別優待割引券。かつて購入した徳間文庫の古本に挟まれていたのですが、なかなかの歴史的価値が感じられる一品です。しかもこの1枚で2名まで有効と書いてあります。お得ですね。
ちょうど先週はこの「魔女の宅急便」が金曜ロードショーで放映されましたが、当時と今ではアニメビジネスに関する状況も随分違います。日本アニメがもてはやされるようになってしばらく立ちますが、「魔女宅」公開の89年と言えば「おたく」がネガティブな意味で捉えられてしまうきっかけとなった宮崎勤事件もありました。そんな中でもクリエイターによってアニメは作られ続け、そして今までアニメ文化は引き継がれてきました。その頃のクリエイターは今でも現役です。この業界を目指している人であれば、アニメ業界が今のような盛り上がりを見せ始めた頃のデータや作品を知る事に損はありません。
1989年と2015年のアニメ映画たち
魔女の宅急便が公開された1989年は、国内外作品含めて31本のアニメ映画が公開されています。2015年は62本ですから、単純に考えてもこの26年で2倍になりました。1989年に公開された映画はこちらの一覧の通りです(Wikipediaより)。
今話題の「おそ松さん」の元ネタである「おそ松くん」劇場版や、押井守のパトレイバー初期映画作品「機動警察パトレイバー the movie」が載っているのが何とも時代を感じます。
そしてこちらが2015年。映画の公開数はちょうど2倍になりました。この流れを見るだけでも、下記のようなことがわかります。
◆1989年に比べ、2015年はTVシリーズからの映画化が多い
(前者はTVシリーズがあったものが約2割、後者は4割近くにまで増えている。89年の「パトレイバー」のTVシリーズが作られたのは劇場版製作後から)
◆1989年におけるTVシリーズ派生形映画は、おしなべて未就学児や小学校低学年が対象なのに対し、2015年の場合は深夜アニメが多くの割合を占める
◆2015年は単館系、小劇場系での劇場公開も多く、必ずしも全てのアニメ映画が全国展開されている訳では無い
こういったデータからわかるのは、アニメ業界のビジネスや対象者がそもそも変化していったという事実です。
激増したアニメ映画が教えてくれること
これらの傾向は、明らかなアニメビジネスの変革を表すものです。アニメ映画だけでなくアニメ自身が、本数は増えているが全体の製作費は下がっている・・・という話は以前に書きました(下記参照)。
その結果、アニメ事業はアニメソフト(DVDやBlu-ray)の売り上げだけでなく、グッズやイベントといった二次、三次利用で利益を上げることが一般的になってゆきました。1989年当時、確かにアニメグッズはいくつか出ているものの、基本的にはビデオソフトやLDだけでなんとか収益を上げていたのが実情です。今ではグッズやイベントといった派生的利益が増え、アニメビジネス全体の美味しさは注目されるものの、アニメ作品自体の予算やそこから来るクオリティにはなかなか反映されていないのが現状です。逆にアニメ作品のクオリティを上げることに特化した作品に関しては、グッズ等の展開を控えめにして単館激情で短期の上映をし、DVDやBlu-rayの購入に繋げるようにしています。
「大きなお友達」という言葉はアニメファンの高年齢化に従ってよく聞かれるようになったフレーズですが、実際アニメは「自らがいくばくかの金銭を持ち、その使い道を判断出来る」いう人達のために作られるようになりました。イベントやグッズはそういった方でなければ購入出来ません。1989年時点では既にコミケがあり、そういった所に集まる「オタク」(この言葉が産まれたのも当時です)も存在していましたが、バブルまっただ中でアニメ業界が特に注目を受けることは無く、不況と言われる今になってアニメ産業およびアニメに携わるオタク向けの産業は発展しています。
今でもまだ何かしらの犯罪が起きた際に「犯人はゲームが好きだった/アニメファンだった」という報道はたまにされています。ちょうど1989年に起きた宮崎勤の幼女連続誘拐事件によって「アニメファン=犯罪予備軍」というイメージが作り上げられてしまったのが大きな理由の1つです。しかし、たった27年の間にアニメはここまで大きくなり、「大きなお友達」無くては成り立たないくらいの産業になりました。アニメファンがこのまま年を重ねることを考えれば、アニメファンの更なる高齢化は容易に想像出来ます。また、アニメが「映像ソフト以外にもビジネスチャンスがある」と捉えられ、既に海外や大手企業、最近では有名バンドのPVに使われるようになったことは大きな進展と言えるでしょう。
一方でアニメはまだそのビジネスチャンスを充分に広げられているとは言えません。アニメの制作(予算を「製作」側から受け、実際に動画を描き、アニメを仕上げる側)会社と、配給する側や製作委員会は立場を別にしていますし、グッズやイベントでの売上が制作会社側に入る事があっても「金額面に不満がある」という意見は根強くあります(アニメーション産業に関する実態調査報告書より)。これからまだアニメ業界が発展してゆくためには、制作する側が良質な環境で制作を続けられるよう、ビジネス的な観点や契約を厳しくチェックできるようになる必要があります。このサイトはクリエイター側の方にご覧頂くことが大変多いのですが、出来れば「製作サイド」の事、アニメ制作という立場がどうビジネス的に活躍出来る余裕があるかなど、興味を持って是非勉強して頂きたいと思っています。それだけであなた自身が作りたいアニメを作る道や、アニメ業界全体がもっと盛り上がり素晴らしい作品が出来る土壌を作るきっかけとなるのです。
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